2018.10.01
M&A

中小企業のM&Aとは?手法やメリット・デメリットを解説します

当記事では中小企業のM&Aを紹介します。

 

中小企業は「中小企業基本法」で業種別に資本金額・従業員数が規定されています。規定の範囲を超えると中小企業ではなくなります。中小企業の範囲を下記の表にまとめました。

 

業種資本金従業員
製造業・建設業・運輸業3億円以下
300人以下
卸売業
1億円以下
100人以下
サービス業
5,000万円以下
100人以下
小売業
5,000万円以下
50人以下
ゴム製品製造業
3億円以下
900人以下
旅館業
5,000万円以下
200人以下
ソフトウエア業・情報処理サービス業
3億円以下
300人以下

 

M&Aとは企業買収を指します。これから中小企業のM&Aについて解説をしていきます。

 

M&Aとは?

M&A(Merger and Acquisition)の略称です。企業・団体・組織の合併(Merger)と株の買い占め(Acquisition)を組み合わせた単語で企業買収を総称しています。相互の企業・団体・組織の経営者が好意的ケースと敵対的ケースに2分されます。株式公開企業は該当する企業の同意を要せずに株式を買い占める行為が可能で、敵対的な買収の手段として用いられます。

 

会社法では、相互の企業・団体・組織が順序立てたプロセスを進めながら、「事業譲渡」「合併」「株式交換」「株式移転」「会社分割」をするように規定されています。

 

新しい業務を展開するときに自会社に新事業部を設ける・子会社を設立することもありますが、該当する事業展開をしている企業をM&Aにより買収すれば、早期に業界に参入できます。その結果不必要となった子会社・事業部を売却して企業・団体・組織力を強化できます。M&Aは友好的なケース・敵対的ケースに関わらずに企業の価値を向上させる効果的な仕組みです。

 

近年のM&Aは敵対的ケースがメディアで取り上げています。株式会社ライブドアがニッポン放送の株を買い占める事件が生じました。経営権の奪取を目的にした敵対的M&Aと投資ファンドによる敵対的M&Aが生じました。この機会に株式公開企業は、自己株式の買収防衛策を導入して企業存続をしています。

 

M&Aの手法

M&Aの手法は3種あります。その3種は

  • ・「売買対象」
  • ・「組織の存続」
  • ・「支払対価」

です。

 

売買対象

「売買対象」は企業・団体・組織を全部売買するまたは一部を売買することです。企業・団体・組織を全部買収しないときもM&Aになります。事業部を売買する「事業譲渡」、事業部を法人格と分割して売買する「会社分割」もM&Aです。最近では株式会社東芝が「半導体事業」を売却しました。この事例もM&Aです。

 

組織の存続

「組織の存続」は買収された組織が存続するまたは吸収される点に2分されます。買収される企業の株式全部または一部を取得する場合、発行済株式を取得する「株式譲渡」「株式交換」と新発株式を取得する「第三者割当増資」「株式移転」があります。

 

買収される企業が買収する企業に吸収される「吸収合併」と新規に設立した企業に相互の企業が吸収される「新規合併」があります。「事業譲渡」「会社分割」は、事業が存続または新設企業に引き継がれます。組織は吸収されますが存続します。

 

支払対価

「支払対価」はM&Aで得る報酬が株式・現金のことです。「株式交換」は買収する企業の株式は、自社株式を対価とします。「合併」「会社分割」は組織を引き続きますので株式が対価です。現金がなくともM&Aが成立します。「株式譲渡」「第三者割当増資」「事業譲渡」の対価は現金です。

 

3種のM&Aの手法マトリクスは下記の表の通りです。

M&A手法
売買対象
組織の存続
支払対価
合併
全部
吸収
株式
株式交換
全部または一部
存続
株式
株式移転
全部
存続
株式
株式譲渡
全部または一部
存続
現金
事業譲渡
一部吸収
現金
会社分割
一部
吸収
株式
第三者割当増資一部存続現金

 

M&Aのメリットとは?

 

買収企業のメリット

 

・事業規模の拡大

買収される企業の存続する経営資源をまるごと手に入れるため、早期に事業を拡大することができます。自社で一から事業構築するよりも早くリスクが低いこともメリットです。

 

・新規事業への参入

新規事業立ち上げには大きなリスクがあります。M&Aの効率的な活用は、既に該当の新規事業を展開して実績がある企業を買収することにより、新規事業立ち上げリスクの軽減化が実現可能です。投資資金があれば、多用な事業展開を行うことができます。

 

・スキルギャップの解消

スキルギャップとはIT技術・建築・看護など専門職が企業によって格差があることです。買収企業はM&Aで売手企業が保有する優れた技術・スキルを取り込み、更なる収益の向上が実現できます。買収企業は専門性の高い技術者を育成せずに事業を拡大する大きなメリットがあります。

 

売手企業のメリット

 

・資金調達能力のが向上

買収企業から信用性・信頼性が高位なM&Aを実行して、買収企業の子会社・系列傘下会社になることで、金融機関からの資金調達が円滑になります。買収企業が優良企業の場合、金融機関は親会社の信用度を審査条件にしますので、効果的に資金調達が可能になります。

 

・創業者利潤(利益・儲け)の確保

M&Aにより自社を売却することで現金化することができます。その現金化が資本金を超えるときに創業者利潤になります。

 

 

M&Aのデメリットとは?

 

買収企業のデメリット

 

・売手企業との融合に失敗

買収企業はM&Aにより売手企業の従業員を抱えます。買収企業と売手企業の社風・慣習・従業員の待遇を融合することは難儀です。ここで上手く調整できないと、買収した企業の人材が流出してしまい、想定した事業が行えないリスクがあります。

 

・事業計画通りにシナジーが生まれない

元来別々の企業が当年・翌年・5年後・10年後の事業計画を立案しています。M&Aにより2つの事業計画を一元化して実行することは難儀です。そして、M&A計画・予定の段階で見直し・調整を適切に実行したとして、買収段階では認識できなかった事象、外部環境の変化により想定していたシナジーが生まれない場合があります。

 

売手企業のデメリット

 

・買収企業との融合に失敗

基本的には買収した企業が上位に位置付けされますが、売手企業の従業員にも誇りがあります。社内慣習・従業員の待遇を融合・調整することが、社内に派閥や見えない壁を作らないことになります。

・経営者の変更と労働条件が変更

M&Aにより買収企業の経営者が売手企業の経営者に変わります。さらに労働条件も買収企業に準拠することになります。一部は猶予期間を設けて買収企業に合わせる企業もあります。青天の霹靂で明日から買収企業になる・子会社化される・傘下に入るケースがあります。ストレスを感じる従業員や将来に不安を抱く従業員がいるはずです。買収企業は従業員の気配りをして不安・不満を緩和させる努力が必要となります。

 

M&Aの事例

M&Aによる成功事例を紹介します。1985年に民営化した日本たばこ産業株式(JT)の事例です。JTは民営化しましたが、健康志向ブームで本業の煙草の国内売上が芳しくなく、食品・飲料・医療関係と事業を拡大していきました。本業の煙草の売上はJT全体の30%を占める程度でした。

国内は人口が減少傾向にある中で、海外市場に注目し、1999年にアメリカ合衆国の煙草製造・販売企業「R.J.レイノルズ・タバコ・カンパニー」をM&Aにより買収しました。「R.J.レイノルズ・タバコ・カンパニー」は「キャメル」「B&W」「ウインストン」「セーラム」「ラッキーストライク」「ピアニッシモ」ブランドを保有する全米第2位の煙草メーカーです。

 

買収後、海外市場で、M&A前の販売本数を10倍まで拡大することに成功しました。この成果により積極的な市場投資とブランド強化を図りました。加えてM&Aによりアメリカ流と日本流のビジネスモデルを融合させて、低迷していた国内販売を補いました。その結果、企業は経営改革と称してコスト削減・人員整理をしますが、ブランド強化によりコスト削減・人員整理に至りませんでした。現在は世界のJTとして成長中の企業です。

 

 

M&Aによる失敗事例を紹介します。商社の最大手丸紅株式会社は中国向けの大豆輸出で首位を維持しており、中国人の人口増加と取引量拡大を目的に、2012年にアメリカ合衆国の穀物商社ガビロン社を買収しました。中国政府は大豆取引の寡占化(独占化)を危惧して輸入規制をしたのです。

中国政府の輸入規制策により、大豆輸出事業環境は非常に厳しい状況に陥り、M&Aをした価値が損なわれてしましました。結果的に2015年の決算では1,200億円の損失を計上することに至りました。外部環境の変化も含めた穀物取引の事業計画立案の甘さが原因の大きな失敗例と言えます。

 

 

中小企業がM&Aをする時に気を付けることは?

中小企業がM&Aを実行する際に注意すべき点があります。売手企業を買収しても支障をきたすことがないか見極めが重要です。売手企業の経営状況や今後の事業展開は決算資料・HP・弁護士情報で確認が可能ですが、万が一の注意点を説明します。

 

第1に「簿外債務」です。「簿外債務」とは総勘定元帳・決算書に計上していない債務を言います。金融機関以外の事業企業や個人から借入金・企業の連帯債務者・滞納法人税がある場合は要注意です。元帳・決算書に計上させていなくともエビデンスはあるはずです。簿外債務がある状態でM&Aを実行すると、残債支払を負うことになります。

 

第2に「従業員の継承」です。M&Aにより企業の経営者が変わっても従業員が継続して勤務できるか確認しましょう。中小企業は企業独自の文化が強いことが多く、M&Aにより有能な人財が流出するケースが多くあります。人財が流出すると売手企業の技術・スキル・取引先の損失になりM&Aを実行しても成果を得ることができません。人財の継承には細心の注意を払いましょう。

 

 

中小企業の企業価値評価方法は?

 

中小企業の企業価値評価方法は3種あります。

 

第1に「コスト・アプローチ」です。対象企業の資産から負債を控除した純資産をベースに企業価値を評価する手法です。簿価ベースの純資産を基にする簿価純資産法と、資産および負債を時価評価したうえでの純資産を基にする時価純資産法の2つの方法があります。

 

第2に「マーケット・アプローチ」です。現在の同業他社で規模が類似している企業の相場を確認します。類似の株価額を基本に算定する方法です。

 

第3に「インカム・アプローチ」です。将来の売上予想・経費予想から収益予測を算定し、現在価値に割引いて企業価値評価を行う方法です。

 

中小企業は株式公開をしておらず、市場での確認が厳しくなります。しかし、金融機関から融資を受ける場合は、企業のキャッシュ・フロー計算書が用いられます。金融機関はキャッシュ・フロー計算書で返済可能か否かを審査するポイントになります。キャッシュ・フロー計算書に基づく企業価値評価が「インカム・アプローチ」方法です。

 

最後に

中小企業のM&Aの検討や実行は、様々なリスクがありますので、経験豊富な国家資格である「公認会計士」「中小企業診断士」「弁護士」などに仲介してもらうと効果的です。代官山税理士法人では、M&A経験者が多数在籍しておりますので、お気軽にご相談ください。

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